排水処理設備の処理管理とは?現場のメンテナンス担当者が語る安全運転のためのポイント

排水処理設備は、工場や施設から出るさまざまな排水をきれいにして自然へ戻すための大切な装置です。
この設備をうまく運用するには、「処理管理」がとても重要です。
この記事では、排水処理の現場で培われた知見をもとに、処理管理の基本や注意すべきポイントを分かりやすく解説します。水処理設備の運用にお悩みの方に、ぜひ読んでいただきたい内容です。
薬品注入とpH調整で処理が始まる
水処理では、排水中に含まれるさまざまな物質を取り除くために、まずは薬品を注入したり、pH(酸性・アルカリ性の度合い)を調整したりして、化学反応を促します。
この反応によって、汚れ成分が集まりやすくなり、「フロック」と呼ばれる大きな粒子(凝集体)がつくられていきます。
たとえば、食品工場から出る排水には、油分やタンパク質が多く含まれます。こうした排水に適切な薬品を加えることで、汚れをまとめて沈ませやすい状態にしていきます。
凝集槽でフロックができれば、処理は順調
正常に処理が行われていれば、沈殿槽前の凝集槽にて大きなフロックが形成され、凝集沈殿が速やかに行われ、汚泥と清澄な水とに分離して処理できていきます。
フロックができないと、水質基準を超えるリスクも
しかし、薬品の反応が適切でない場合、フロックがうまくできません。
その結果、小さな粒子がそのまま処理水の中に残ってしまい、水が濁ったまま排出される恐れが出てきます。これが「処理不全」と呼ばれる状態で、水質基準を超えてしまう原因になります。
とくに工業団地などで排水基準が厳しいエリアでは、このようなトラブルが企業にとって大きなリスクとなり得ます。
日々の確認が処理不良を防ぐカギ
処理不良を防ぐためには、日常的な点検とメンテナンスが欠かせません。以下の項目を意識するだけでも、処理の安定性が大きく向上します:
・凝集槽でのフロックの形成状態を目視で確認する
・薬品の注入量や吐出圧が適切かをチェックする
・pH電極の汚れや誤差を確認し、定期的に洗浄・補正する
たとえば、あるプラスチック製品工場では、pH電極が汚れていたことが原因で薬品の注入制御がうまくいかず、処理水の透明度が低下してしまいました。日々の簡単な清掃で防げたトラブルだったのです。
薬品の使いすぎ・使わなすぎが引き起こすトラブルとは?
処理不良の原因としてよく見られるのが、薬品の注入量の過不足です。
少なすぎると…
近年、薬品価格が上昇しており、コスト削減のために薬品の使用量を減らす現場も増えています。
しかし、必要な成分が不足すると、フロックが形成されにくくなったり、pH調整が追いつかなくなったりします。その結果、凝集が不十分になり、処理不良へとつながってしまいます。
多すぎると…
逆に、薬品を多く入れすぎても問題です。
・フロックができすぎて、汚泥が多くなりすぎる
・沈殿槽に汚泥が堆積しやすくなる
・他の薬品とのバランスが崩れ、凝集が悪化する
・薬品によっては、過剰に投入すると凝集を阻害することも
つまり、「たくさん入れればいい」というものではなく、送水量に対して適正な注入量を常に確認することが重要です。
フロックの堆積が引き起こす二次トラブルに注意
凝集・沈殿の過程でできたフロックは、反応槽や沈殿槽の底に少しずつたまっていきます。
この堆積を放っておくと、槽の容量が減って反応時間が短くなり、処理性能が低下します。
こうした事態を防ぐためには、以下のような定期的な清掃・引き抜き作業が大切です:
・沈殿槽の汚泥を定期的に引き抜き、脱水処理を行う
・反応槽も、バキュームなどで底部を清掃する
たとえば、ある塗装工場では沈殿槽の清掃を1年間怠った結果、汚泥が溜まりすぎて処理時間が大幅に短縮され、排水が処理しきれないという問題が発生しました。清掃後は処理能力が回復し、問題は解消されました。
設備を「観察する目」がトラブルを防ぐ
排水処理設備は、「入れる薬品の量」「フロックの状態」「装置の汚れ」など、ちょっとした変化が全体の処理性能に大きく影響します。
処理管理のポイントは、「日々の変化に気づくこと」。
しっかり見て、正しく調整し、丁寧にメンテナンスすることが、安定運転への第一歩です。