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2025.08.25
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排水処理設備における管理のポイント~クロム、シアン、青化銅・青化銀、混合、PH調整槽の処理を安全・安定に行うための実践知~

排水処理設備における管理のポイント~クロム、シアン、青化銅・青化銀、混合、PH調整槽の処理を安全・安定に行うための実践知~

排水処理設備の運用において、安全かつ安定的な処理を実現するには、各工程での細かな調整や設備設計の工夫が欠かせません。特に、六価クロムやシアンや青化銅・青化銀など、有害物質を含む排水の処理では、処理条件のわずかな違いが大きなトラブルにつながることもあります。

本記事では、排水処理の現場を50年にわたって支えてきた熟練技術者によるノウハウをもとに、六価クロムやシアンや青化銅・青化銀など、有害物質を含む排水の処理における具体的な管理方法をご紹介します。

クロム処理:変動に強い処理システムの考え方

クロムを含む排水では、ラインの稼働日や時間帯によってPH値や六価クロム濃度が大きく変動することがあります。

たとえば、PHが低い状態で還元剤を過剰に注入すると、有毒ガスが発生するリスクがあります。一方、PHが高すぎると還元反応が不十分となり、六価クロムが処理されずに残ってしまう可能性があります。

クロム前PH調整槽の設置で安定処理を実現

このようなトラブルを防ぐために、弊社ではクロム還元槽の前に「クロム前PH調整槽」を設けています。ここで、硫酸と苛性ソーダを用いて排水のPHを 2.0~2.2程度に調整します。

この処理を行うことで、クロム還元槽ではPHが自然と上昇し、硫酸のみで補正が可能となります。結果として、苛性ソーダの過剰注入によるPHの急低下や、それに伴うガス発生リスクを大きく抑えることができます。

ORP(酸化還元電位)による反応管理

クロム処理では、ORP値(酸化還元電位)を目安に処理を制御します。六価クロム濃度にもよりますが、+220~250mVあたりを目標に設定します。

・ORP値が低すぎると、還元剤が過剰に入りガスが発生
・ORP値が高すぎると、還元不足で六価クロムが残る

処理水は中和(PH7)された後、パックテストなどで未処理の六価クロムやガスの発生の有無を確認しながら、ORP値を微調整していきます。

また、安全性を優先するために還元剤はやや多めに使用しますが、その場合は後工程で塩化カルシウムを注入し、過剰の還元剤を取り除いて水質の安定化を図ります。

六価クロム濃度が低い場合の工夫

六価クロムの濃度が非常に低いと、ORP計では検出できないケースもあります。このような場合は、以下のような対策を講じます:

・クロム送水原水ポンプと連動して還元剤を注入
・または、アニオン交換樹脂による吸着処理を行う

これにより、未処理の六価クロムの流出を防止できます。

シアン処理:PH変動によるガス発生を防ぐ工夫

シアン排水の処理もまた、PHや濃度が稼働条件によって変動しやすく、注意が必要です。

特に、シアン1次反応槽で処理しきれなかった未処理シアンがシアン2次反応槽に流れた際、PHが下がることで有害ガスが発生するリスクがあります。

「シアン前PH調整槽」の設置

この問題に対応するために、シアン前PH調整槽を設置しています。この槽であらかじめPHを安定させておくことで、1次反応槽での処理効率が上がり、未処理のシアンが下流へ流れ出すのを防止します。

青化銅・青化銀の処理:色の変化で反応を判断

シアンと金属が結合した状態で存在する青化銅や青化銀の処理には、次亜塩素酸ソーダを使用します。ただし、過剰に注入すると金属が酸化し、色に変化が現れます。

・銅(Cu)は 黒く(Cu → CuO)
・銀(Ag)は グレーに(Ag → Ag₂O)

このように、処理槽の水の色を目視で確認することで、次亜塩素酸ソーダの注入量が適正かどうかを判断できます。

残留塩素量とORP値の管理

処理の目安としては、残留塩素測定紙で10〜50mg/L程度を確認し、それに合わせてORP値を設定します。

鉄シアンの除去:再酸化のリスクと対応

鉄シアンは、次亜塩素酸ソーダで処理した後でも、フェリシアン化鉄として存在し続けます。この状態では、通常のPH調整では除去できません。

そのため、以下の処理を行います:

・重亜硫酸ソーダ(クロム還元にも使う還元剤)を用いて還元する
・フェリシアン → フェロシアンへ変化させた後、鉄や銅などの金属イオンと不溶化化合物を形成し、沈殿除去する

なお、反応時間が短いことから専用の鉄シアン槽を設ける必要はありません。

また、六価クロム処理水と混合する際に、処理水中にシアン処理の過剰な塩素が残っていると、三価クロムが六価クロムに再酸化される恐れがあります。これを防ぐために、シアン2次反応槽出口のオーバーフロー管に還元剤を定量注入する設計としています。

混合槽とPH調整槽の運用:トラブル時のバックアップとしても有効

排水処理の最後に行う混合処理では、クロム処理水・シアン処理水・酸アルカリ雑排水などを一つの混合槽でブレンド処理します。ここでは以下のような薬剤を必要に応じて加えます:

・塩化カルシウム/塩化鉄(凝集助剤)
・粉末活性炭(COD除去)

反応時間に応じて20~60分程度の容量の槽を設計しています。

トラブル発生時の代替機能

弊社の設計では、PH調整槽に異常が発生した際、混合槽を一時的にPH調整槽として活用できる構造になっています。混合槽にもPH計や、苛性ソーダ・硫酸の注入ポンプを設けており、いざという時にもPHコントロールが可能です。

まとめ:実績と経験に基づいた、トラブルに強い処理設計

排水処理設備は、単に基準を満たすだけでなく、変動やトラブルに強い構成であることが求められます。クロムやシアンなどの有害物質を安全に処理するためには、PH調整・ORP制御・薬注タイミングなどの繊細なバランスが必要です。

弊社では、現場で培ってきたノウハウをもとに、トラブル時のリスク低減や安定運転を最優先にした設備設計を行っています。処理設備の見直しや導入をご検討中の方は、ぜひ一度ご相談ください。