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2025.10.20
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水質汚濁防止法をわかりやすく解説!対象や排水基準まで徹底解説

水質汚濁防止法をわかりやすく解説!対象や排水基準まで徹底解説

私たちの生活や産業活動の中で、知らず知らずのうちに川や海が汚れてしまうことを防ぐために定められた法律が「水質汚濁防止法(すいしつおだくぼうしほう)」です。

「聞いたことはあるけど、正直むずかしそう…」と思っている方のために、水質汚濁防止法の目的や仕組み、どのような施設や業種が対象になるのか、違反するとどうなるのかまで、できるだけわかりやすく丁寧に解説します。

なぜ「水質汚濁防止法」が必要なの?法令の意義

きれいな川や海は、私たちの暮らしや自然環境にとって欠かせないものです。

しかし、かつての日本では、工場や家庭からの排水によって水質が著しく汚れ、深刻な公害が全国各地で発生していました。

日本の高度経済成長と水質汚染

1960年代の高度経済成長期、日本では急速な産業発展に伴って、工場からの排水が川や海に流れ込み、大きな環境問題となりました。

有名なものでは、イタイイタイ病(富山県)、水俣病(熊本県)のように、有害物質による水質汚染が人々の健康を脅かすケースもありました。

水質を守るための法整備

こうした背景を受けて、1970年に「水質汚濁防止法」が制定されました。

目的は、公共用水域(河川・湖沼・海域など)の水質を守り、人の健康や生活環境を保全することです。

水質汚濁防止法の導入により、排水に関する基準や届け出義務が明確になり、一定の規制がかけられるようになりました。

現在でも水質維持に必要な法律

一見すると昔の話のように思えますが、現代においても事業活動による水質汚染リスクは存在しています。

また、温暖化や集中豪雨などの影響で、より慎重な環境管理が求められる時代になっています。

そのため、水質汚濁防止法は過去の教訓をもとに現在も活用されている、非常に重要な環境法なのです。

水質汚濁防止法が適用されるのはどんな場所?

水質汚濁防止法は、すべての場所に一律で適用されるわけではありません。

対象となるのは、公共用水域に排水を行う特定施設や有害物質を扱う施設など、いくつかの条件を満たす場所です。

「特定施設」が規制の対象となる

水質汚濁防止法では、排水を通じて水質汚染の可能性がある施設を「特定施設」と定義し、規制の対象としています。

<特定施設の例>

・食品製造工場(洗浄水や加工水)
・金属加工工場(研磨・洗浄工程)
・印刷工場(インクや洗浄液)
・化学製品工場(有害物質を含む排水)
・クリーニング工場
など。
(参考:「特定施設一覧」https://www.env.go.jp/council/content/i_07/900428967.pdf

公共用水域も規制対象となっている

「公共用水域」とは、国民が生活や産業で利用する河川・湖沼・海域などを指します。
つまり、排水が自然の水に直接流れ込む可能性がある施設は、規制の対象になり得ます。

下水道を通じて排水している場合も有害物質を含んでいれば規制対象

一般の下水道に接続されている場合でも、特定有害物質を含む排水を行う施設は「有害物質貯蔵指定施設」などとして別の規制を受けます。

また、下水道法による規制と重複するケースもあるため、この場合は「水質汚濁防止法+下水道法」の両方を確認する必要があります。

覚えておきたい水質汚濁防止法の基本用語

水質汚濁防止法は「専門用語」が多くて難しく感じられるかもしれませんが、ポイントをおさえれば大丈夫。

ここでは、最低限知っておきたい用語をやさしく解説します。

排水基準(はいすいきじゅん)

工場や施設から出す排水には、「これ以上の汚れはダメ」という上限値=基準値が定められています。

これが「排水基準」で、BOD(生物化学的酸素要求量)やCOD(化学的酸素要求量)などの数値で示されます。

・一般排水基準:すべての施設が守るべき全国共通の基準
・上乗せ排水基準:地域ごとに独自に設定される、より厳しい基準

(参考:「一般排水基準」(環境省)https://www.env.go.jp/water/impure/haisui.html

BODCOD

水の汚れ具合を測る代表的な指標です。
どちらも「水中の有機物(汚れ)を分解するのに必要な酸素量」を表します。

・BOD(Biochemical Oxygen Demand)
= 微生物による分解に必要な酸素量(主に河川や湖沼)
・COD(Chemical Oxygen Demand)
= 薬品で分解する際に必要な酸素量(主に海域)

どちらも数値が大きいほど水が汚れていることを意味します。

有害物質

人体や生態系に悪影響を及ぼすおそれのある物質で、40種以上が「有害物質」として指定されています。
たとえば六価クロム、シアン、鉛、カドミウムなどが含まれます。

これらを扱う場合は、通常の排水基準とは別の厳しい基準が適用されます。

(参考:「指定物質に関するQ&A・表1有害物質一覧」(環境省)https://www.env.go.jp/water/law/qa_hs.html

特定施設

水質を汚すおそれのある施設をまとめて「特定施設」と呼びます。
水を使った加工や洗浄工程がある事業場の多くが該当し、設置や変更の際には届け出が必要です。

(水質汚濁防止法第2条第2項 https://laws.e-gov.go.jp/law/345AC0000000138

公共用水域

「公共用水域」とは、一般の人が使う川・湖・海などの水域のことです。
この法律では、これらに排水が流れ込む場合に規制の対象になります。

公害防止管理者

水質や大気などの環境対策を管理する「資格者」のこと。
一定規模の事業場では、国家資格を持つ管理者を選任する義務があります。

(参考:公害防止管理者・一般社団法人産業環境管理協会 https://www.jemai.or.jp/polconman/

どんな規制があるの?届出・基準・罰則について

水質汚濁防止法には、排水に関する具体的な規制が定められています。
ここでは、施設の届出義務や守るべき基準、違反した場合の罰則についてわかりやすく解説します。

特定施設を設置する場合の届出義務

事業場に「特定施設(排水設備)」を新たに設ける場合や、既存の設備を変更する場合は、あらかじめ都道府県知事への届出が義務付けられています(第5条)。

・届出は使用開始の60日前まで
・書類には、施設の種類・排水経路・処理方法などを記載する

また、施設を廃止する場合は、廃止した日から30日以内に届出が必要です。

特定施設が守るべき排水基準

特定施設から出る排水には、国が定める「排水基準」を守る義務があります。

<排水基準の例>

項目 意味・対象 基準値の例(mg/L
pH 酸性/アルカリ性の強さ 5.8以上8.6以下
BOD(生物化学的酸素要求量) 微生物が有機物を分解するのに必要な酸素量。水の汚れ具合を示す。 160mg以下
COD(化学的酸素要求量) 薬品で酸化したときに必要な酸素量。主に海水域で使用。 160mg以下
SS(浮遊物質) 水に浮かんでいる泥やゴミ、粉など。 200mg以下

これらの数値を超えた排水を流してはいけません。
また、地域によっては「上乗せ排水基準」が定められていることもあります。

排水の自己測定・記録義務

一定規模以上の施設では、定期的な排水の水質測定と、その記録の保存義務(3年間)があります(第14条、水質汚濁防止法施行規則 第9条第9号)。

事業者が自ら適正な排水を管理する責任を担うための規定です。

水質汚濁防止法に違反した場合の罰則

法律に違反した場合は、行政処分または刑事罰が科されることがあります。

<主な罰則内容(第30条〜35条)

条文 刑罰 対象となる違反行為(例)
第30条 1年以下の懲役または100万円以下の罰金 改善命令や一時停止命令などに違反した場合
第32条 6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金 届出をせず特定施設を設置した、緊急時の措置を講じなかった場合
第33条 30万円以下の罰金 排出水の測定・記録義務に違反した場合など
第34条 法人の代表者や従業員が違反した場合、その法人にも罰金が科される規定
第35条 10万円以下の過料 氏名変更届や使用廃止届などの届出を怠ったり、虚偽の届出をした場合

法律は「知らなかった」では済まされない!

「うちの業種は関係ないと思っていた」
「前の担当者が把握していなかった」
…というケースでも、違反は違反です。知らなかったと言っても、罰則が免除されることはありません。

最悪の場合、企業名の公表や業務停止処分にもつながる可能性があります。

そのため、対象となる施設では法令の確認と日常的な管理体制の整備が不可欠です。

【チェックリスト】あなたの会社は水質汚濁防止法の対象?

以下の項目に1つでも当てはまる場合は、水質汚濁防止法の対象になる可能性があります。

<簡易セルフチェック(YES/NOでご確認ください)>

チェック項目 該当
工場や事業場で水を使った加工・洗浄を行っている YES / NO
排水が川・海・用水路などの「公共用水域」に流れている YES / NO
6価クロム、シアン、鉛、カドミウムなどの有害物質を扱っている YES / NO
排水処理設備(浄化槽・沈殿槽など)を設置している YES / NO
工場排水について、行政に届け出をした覚えがない YES / NO
新たに排水を出す施設を建てる予定がある YES / NO
排水処理や測定の担当者がはっきり決まっていない YES / NO

➡ 1つでもYESがあれば、要確認!
地域の環境担当窓口や専門家に相談することをおすすめします。

まとめ

水質汚濁防止法は、「難しそうだから後回し」とされがちですが、私たちの暮らしや自然環境を守るために、非常に重要な法律です。

対象となるのは、工場だけではありません。事業規模が小さくても、対象になることがあります。届出を忘れていた、基準を知らなかったでは済まされないものです。

水質汚染は一度起きてしまうと、自然回復までに長い年月と大きな費用がかかります。だからこそ、「うちは大丈夫?」と立ち止まって確認することが、環境を守る第一歩です。