六価クロムの処理方法 – 2024年4月の水質汚濁防止法改正にも対応
めっき処理や防錆処理などの現場で、今もなお課題となっているのが「六価クロムを含む排水処理」です。
私たちの現場でも、長年使われてきた六価クロムの取り扱いには細心の注意を払ってきました。酸化力や防錆力が高い一方で、毒性が強く、処理を誤ると環境だけでなく作業者の健康にも影響を与える可能性があります。
2024年の法改正により、六価クロムの排水基準が一段と厳しくなり、従来の処理方法では対応が難しいケースも増えています。
この記事では、六価クロム排水の処理手順を、実際の現場での取り組みや注意点を交えて分かりやすく解説します。
六価クロムとは?
六価クロムは、人体や環境に対して高い毒性を持つ危険な物質です。DNAやタンパク質を傷つける作用があり、皮膚や粘膜の炎症、呼吸器の疾患、がんの原因にもなります。
酸化力と防錆力が強いため、金属防錆やめっき処理など多くの工業分野で使われてきましたが、高い毒性を持つことから現在では使用が制限されることも多く、世界中で代替が進んでいます。
六価クロムを含む排水は、厳格な排水基準に則った適切な処理が必要です。
六価クロムの排水基準
六価クロムの排水基準は、2024年4月の水質汚濁防止法改正により、
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0.5mg/Lから0.2mg/L
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へと厳格化されました。
ただし、六価クロムを使用することが多い電気めっき業に属する特定事業場では、3年間は
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0.5mg/L
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の暫定排水基準が適用されます。
これは既存の排水処理設備では厳格化された基準を直ちにクリアすることが困難なためです。
六価クロムの排水処理方法
六価クロムの厳格な排水基準をクリアするためには、適切な排水処理を行う必要があります。
以下は代表的な排水処理の手順です。
手順1.還元剤で三価クロムに還元する
手順2.アルカリ剤で中和処理する
手順3.凝集沈殿させて処理する
それぞれの手順を掘り下げて確認していきましょう。
手順1.還元剤で三価クロムに還元する
鉛やカドミウムなど多くの重金属は、水中のpHをアルカリ性に上げると、不溶性の水酸化物を形成して沈澱しますが、六価クロムはそのままでは水酸化物にならずに水底に沈澱しません。
そのため、まずは還元という化学反応によって、毒性が低く水酸化物となる三価クロムに変換する必要があります。
三価クロムへの還元の方法は以下の通りです。
・排水のpHを2〜3の酸性に調整する
安定的に処理をするために下記の記事も併せてご覧ください。
https://www.suirei.co.jp/blog/2025/08/key-wastewater/
https://www.suirei.co.jp/blog/2025/09/activated-carbon-2/
・主として重亜硫酸ソーダ、亜硫酸ソーダなどの還元剤を投入して排水を撹拌する
・酸化還元電位(ORP)をモニターして、還元が完了したことを確認する
手順2.アルカリ剤で中和処理する
六価クロムを還元して生成した三価クロムは、他の重金属と同様に排水のpHをアルカリ性にすることで水酸化物となって沈澱します。
この時に使用される中和剤の代表例が、苛性ソーダと消石灰などのアルカリ剤です。還元処理でpHが下がった排水を中和剤でpH8〜9まで上げることによって、三価クロムが水酸化クロムとなって水の底に沈澱します。
手順3.凝集沈殿させて除去する
その後、水酸化クロムを効率良く沈澱させるために使用するのが高分子凝集剤です。
中和処理した直後の水酸化クロムはまだ微細な粒子の状態であり、このままでは沈降速度が速くありません。高分子凝集剤は微細な粒子を大きくして沈降速度を上げる役割を担います。
沈澱した水酸化クロムを除去して脱水処理した後、産業廃棄物として処理することで排水処理は完了です。この手順で排水基準をクリアできない場合は、膜処理やイオン交換処理を検討しましょう。
まとめ
六価クロムは非常に扱いに注意が必要な物質ですが、適切な手順を守れば安全に処理することができます。
還元・中和・凝集沈殿という基本の流れを確実に行い、pHやORPの管理を徹底することが、安定した処理と法令遵守につながります。
排水基準が厳しくなる中で、処理設備の見直しや運転管理の最適化は避けて通れません。現場での経験を積み重ねながら、一つひとつの工程を確実に実行していくことが、環境保全と生産の両立につながると感じています。