【事例解説】高純水製造と無排水型リサイクル処理システムの構成
水処理設備の中でも、純水製造と無排水処理を組み合わせたシステムは、高い技術力と設計ノウハウが求められる分野です。
今回は、工業薬品を製造するメーカーへの実際の納入事例をもとに、高純水製造システムと無排水型リサイクル処理システムの構成と、各処理工程の役割をわかりやすく解説します。
高純水製造システムが必要とされた背景
工業薬品の製造では、基礎薬品を純水に溶解して製品を作ります。製品の種類は多岐にわたり、製造が完了するたびに容器を純水で洗浄します。この洗浄排水には、製品成分(重金属・有機物・各種イオンなど)が含まれており、そのまま放流することはできません。
この排水を処理して再び純水として回収し、製造ラインや研究所で再利用する。それがこのシステムの目的です。単に排水を処理するのではなく、「使った水をもう一度使える水に戻す」という発想が、無排水型リサイクル処理システムの根幹にあります。
このシステムは大きく2つのサブシステムで構成されています。ひとつは、製造に必要な純水を市水から作る「高純水製造システム」。もうひとつは、製造工程で使用した排水を浄化して純水として回収する「無排水型リサイクル処理システム」です。
以下、それぞれの構成を詳しく説明します。
高純水製造システムの構成
工業薬品の製造には、不純物が極めて少ない高純度の水が必要です。水道水には、カルシウム・マグネシウム・シリカ・炭酸イオンなどのイオン成分が含まれており、そのままでは薬品の溶解に使えません。
これらの不純物を段階的に除去し、超純水に近い水質まで仕上げるのが高純水製造システムです。
軟水塔
市水を最初に通すのが軟水塔です。軟水塔の役割は、次工程のRO装置を保護することです。市水に含まれるカルシウムやマグネシウムは、RO膜の内部でスケール(固形物)を形成し、膜の目詰まりの原因になります。軟水塔のイオン交換樹脂がこれらの硬度成分を吸着除去することで、RO装置への負荷を大幅に軽減します。
軟水塔の樹脂が飽和した際は、スイレイが引き取り、自社の再生センターで再生処理を行います。現地工場内では再生を行わない設計のため、再生廃液が工場内に発生しません。廃液処理の手間と環境リスクを工場側に負担させない、スイレイの設計思想が反映された部分です。
RO装置(逆浸透膜装置)
軟水塔を通過した水は、次にRO装置で処理されます。RO装置は逆浸透膜を使用して、ナトリウムイオン・シリカイオン・炭酸イオンなど、軟水塔では除去できなかった溶解性イオンを除去します。RO膜を透過した水(透過水)は、一般的な純水に近い純度まで仕上がります。
RO装置で発生する濃縮水(除去したイオンが濃縮された水)は、後述する無排水型リサイクル処理システムのクローズド排水処理設備で処理されます。濃縮水を排流せず、システム内で処理するのがこのシステムの無排水設計の特徴のひとつです。
超純水型イオン交換設備
RO装置の透過水は純水レベルの水質ですが、工業薬品の製造には更なる高純度化が必要です。RO透過水はイオン交換塔でさらに精製され、超純水に近い水質まで仕上げられます。このイオン交換塔で製造された高純水が、実際の薬品製造ラインへ送られ、製品の溶解・製造に使用されます。
無排水型リサイクル処理システムの構成
製造工程で使用した容器の洗浄水、および研究所から排出される排水は、無排水型リサイクル処理システムで処理されます。
このシステムは「前処理設備」「脱塩処理設備」「晶析装置」の3工程で構成されており、最終的に排水を純水として回収・再利用することを目的としています。
前処理設備
ラインからの洗浄排水には、錫・銅などの重金属と、製品成分由来の有機物が含まれています。まずこれらを除去するのが前処理設備の役割です。
処理の流れですが、まずpH調整槽で排水のpHを調整し、重金属を水酸化物として析出させます。同時に粉末活性炭を添加し、溶解している有機物成分を吸着除去します。
析出した重金属水酸化物と活性炭は、スイレイシック(凝集内蔵型沈殿槽)で沈降分離します。スイレイシックの上澄み水(処理水)は、次工程に送る前にMF装置(精密ろ過膜装置)で微細粒子まで除去します。
MF膜は0.02μmという非常に細かい孔を持ち、スイレイシックでは取りきれなかった微粒子を確実に除去します。スイレイシック下層に蓄積した重金属水酸化物を含むスラリーは、全自動圧搾式脱水機で脱水処理され、産業廃棄物として適切に処分されます。
脱塩処理設備
MF装置を通過した処理水は、目視では透明できれいな水ですが、ナトリウム・硫酸などの溶解性イオンがまだ含まれています。これをそのまま再利用することはできないため、RO装置で脱塩処理を行います。
RO装置の透過水は、さらに活性炭塔と組み合わせたイオン交換塔で高純度化されます。活性炭塔で残留有機物を吸着除去した後、イオン交換塔で溶解塩類を吸着除去することで、製造ラインや研究所への再利用に適した純水が生成されます。
こうして回収された純水は、容器洗浄水や研究所への供給水として再び活用されます。
晶析装置(CDドラムドライヤー)
RO装置から発生する濃縮水は、塩濃度が高いため、そのまま廃棄することも放流することもできません。この濃縮水を最終的に固形化・減量化するのが晶析装置(CDドラムドライヤー)の役割です。
晶析装置は水蒸気を熱源として使用します。回転するドラムの表面に濃縮水を吹きかけると、水分が蒸発してドラム表面に塩分が付着します。この付着した塩分をスクレーパーでかき取ることで、乾燥スラッジとして回収します。クレープを作るような要領で、液体の濃縮水を固形物に変換するイメージです。
固形化されたスラッジは産業廃棄物として処分します。この結果、RO濃縮水も液体のまま廃棄・放流することなく、システム内で完全に処理することができます。
このシステムが実現する2つの価値
高純水製造システムと無排水型リサイクル処理システムを組み合わせたこの設備は、工業薬品メーカーに対して2つの重要な価値をもたらします。
1.水資源の自給
製造に必要な高純水の大部分を、使用済み排水から回収・再生することで賄えます。水が重要な資源となっている現代において、自社内で水を循環利用できることは、コスト面でも環境面でも大きな意義があります。
2.環境汚染リスクの排除
処理水を一切放流しない設計となっており、水質に関わる環境汚染のリスクがありません。重金属・有機物・高濃度イオンを含む排水が工場外に出ることがなく、工場運営における環境コンプライアンスを確実に担保できます。
一般的な凝集沈殿処理による排水処理設備と異なり、イオン交換・膜処理・晶析といった高度処理技術を組み合わせることで、一度使用した排水を再び生産ラインで使用できる水質まで回復させる。このシステムは、環境保全と生産効率の両立を実現するスイレイの技術の集大成といえます。
まとめ
今回ご紹介した高純水製造システムと無排水型リサイクル処理システムは、工業薬品メーカーの実際の課題——高純度の製造用水の確保と、製造排水の完全リサイクル——に応えるために構築されたシステムです。
軟水塔・RO装置・イオン交換設備による高純水製造から、前処理・脱塩・晶析による排水の完全リサイクルまで、一連の処理フローをスイレイが一貫して設計・納入しています。
水の有効活用と環境リスクの排除を同時に実現したいとお考えの際は、ぜひスイレイへご相談ください。